解説 of LINE(ライン)/小谷忠典監督作品

「他者」を見つめる限りなく透明な眼差し。
ドイツ、ポルトガル、スペイン、イタリア…ヨーロッパの各映画祭で静かな熱狂を巻き起こした新世代ドキュメンタリー

ストーリー_イメージ02.png全編を貫く「見つめる」というカメラアイの在り方は、決して他者との境界を踏み越えることはない。しかし、限りなく他者に近づき「見つめる」その距離感が、次第に見つめ続ける時間そのものと共に融解していく過程の中で、その映像はドキュメンタリーに内在する「フィクション」すら飛び越え、ただ「映画」に昇華していく。それは同時に、一見繋がりそうにない父、恋人の子ども、コザの娼婦、傷痕、を細い一本の線(LINE)で繋ぎとめ、「他者と向き合うこと」「関係すること」の本質を浮かび上がらせる飛翔でもあるのだ。
監督は「いいこ。(2005年公開)」等、主に劇映画を制作している小谷忠典。本作は初のドキュメンタリー作品ながら、「家族」を題材にしつつもそこから沖縄・コザの娼婦たちの「傷」へ軽々と飛翔する視線の斬新さに、ヨーロッパの各映画祭では驚きを持って迎えられた。フィクションとノンフィクションを自由に行き来する、新世代作家に要注目。

「大阪・大正区 と 沖縄・コザ

ストーリー_イメージ03.png大正区は大阪市24区のうち、湾岸に面している区の一つ。明治以降、繊維産業が盛んになったことが経緯になり工業地帯として発展。沖縄全土で深刻な飢饉が発生したことも重なって沖縄からの移住者が集まり、現在は区民のおよそ4分の1を沖縄系が占める。沖縄料理の店が数多くあるほか、住宅の門にシーサーが設置されていたり、敷地内にゴーヤーが植えてある住宅も点在する。小谷監督はこの土地で生まれ育った。
コザ吉原は沖縄本島中部にあるコザ(現・沖縄市)中心街の外れにある社交街。1955年の売春防止法により赤線地帯は廃止されたが、当時の沖縄は日本統治下ではなかったため適用されなかった。72年の本土復帰に伴い10年間の猶予期間与えられたが、猶予期間をとうに過ぎた現在も存続している。市内に嘉手納基地を抱え、1970年のコザ暴動等米軍との軋轢が絶えない地域でもある。

受賞歴

トップ_イメージ01.png・第27回トリノ国際映画祭 THE CULT AWARD(イタリア)入選作品
・カッセルドキュメンタリーフィルム&ビデオ祭(ドイツ)入選作品
・プント・デ・ヴィスタ国際ドキュメンタリー映画祭(スペイン)入選作品
・NIPPON KOMA '09(ポルトガル)招待作品
・ドキュメンタリー・ドリーム・ショー山形in東京2008 招待作品